大判例

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高知地方裁判所 昭和26年(行)1号 判決

原告 吉本茂太郎

被告 高知税務署長

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は、請求の趣旨として、「被告が訴外内川美子に対する所得税徴収の為昭和二十五年十一月二十一日、高知市新京橋十六番地上家屋番号同町十四番店舗木造杉皮葺平家建一棟建坪三十坪に対しなした差押を取り消す」との判決を求め、その請求の原因として、右の家屋は原告の所有で、その内約四坪を昭和二十三年一月から翌年一月まで訴外内川美子に賃貸して、同人が喫茶店を営んでいたことがある。被告は内川美子に対する昭和二十三年度所得税十二万七百二十円、督促手数料十円および延滞金徴収の為昭和二十五年十一月二十一日右家屋を同人の所有として差し押えたが、それは誤りであるから取消を求める。尚本件に付原告が審査請求をしていないことは認めるが、本訴は国税徴収法十四条に基くものである。と述べた。

被告代理人は主文同旨の判決を求め、その理由として、被告が訴外内川美子に対する滞納国税徴収の為昭和二十五年十一月二十一日原告主張の家屋を差押へ同月二十九日その登記をしたことは相違ないが、国税の滞納処分に関しては審査の請求をしてその決定を経た後でなければ訴訟を提起できないところ、原告は法定期間内に書面で審査の請求をしていない。また右差押に付原告の代理人吉本アサが同年十二月二十七日被告に公売処分猶予を申請し、翌二十八日原告本人から差押物件は原告の所有である旨申立てたので、被告はその当否決定まで公売処分を延期している。従て審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずるおそれはなかつたわけであるから、本訴は不適法として却下さるべきである。と述べ、本案に付原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、地方税法第五十七条第二項には、家屋台帳に所有者として登録されたものをその家屋の所有者とする。と規定せられている。本件家屋は昭和二十二年九月二十七日訴外内川美子所有として家屋台帳に登録せられ以後差押当日迄変更がないから、同人所有として差押えたのは正当である。もつとも右は家屋台帳法第十三条による職権登録であるが、そのことは右の結論には影響しない。と述べた。

三、理  由

本訴は所得税に関する滞納処分たる差押の取消を求めるものであるが、国税徴収法第三十一条の四第二項によると、滞納処分に関する訴訟は、先ず政府に対し審査の請求をして、その決定を経た後でなければ、之を提起できないことになつている。然るに原告がその審査の請求をしていないことは、原告の認めるところである。もつとも公売処分実施の日が定められそれが切迫しているような場合には行政事件訴訟特例法第二条但書の適用により直ちに出訴することが許されるであろうが、かような特別事由の存在は、本件で主張されていない。単に差押から公売に移行する虞があるというだけでは、審査請求をすることにより著しい損害を生ずる虞があるものとは云えない。原告は国税徴収法第十四条を援用しているが、同条は収税官吏に対する申告に付規定しただけのことで、之によつて政府に対する審査の請求を不必要とする趣旨とは考えられない。然らば本訴は前審手続を経由しないもので、不適法であるから却下すべきものと認め、訴訟費用に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)

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